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「愛」は苦しみを表すもの? 幸せと悲しみの切り離せない関係

 

2020/01/16

いつもお読みいただき、ありがとうございます。
チューリップ企画スタッフのわかです。

前回の記事で日本から料理本の4人分の表記がなくなってゆくことを書きました。
日本から消えゆくものは他にもあって、その一つが「愛」という表現です。
Jポップの歌から「愛」という言葉がなくなっていっているのだそうです
言われてみれば、以前ほどは聞かなくなったフレーズかもしれませんね。

最近の歌詞では、愛という言葉をストレートに出さずに、遠回しな表現をすることが多くなったのだとか。
日本人は元々自分の思いをはっきりと口にしない傾向にあります。
「愛」という言葉は、思いが全面に出ている感じがして、なんとなく気恥ずかしくなってしまうのかもしれません。

「愛」という言葉が表すもの

「愛」というのは、深い言葉だなあと感じます。
「好き」という言葉よりも、「愛している」の方が、思いの強さがうかがえるからです。
対象物に向かう気持ちが大きければ大きいほど、愛という言葉がしっくりくるようです。
それだけ思いをかけられるものがあるということは、幸せなことなのでしょうね。

一般的に「愛」は素晴らしいものとして考えられています。
だからこそ、世間でもいろいろなところでこの言葉が使われているのだと思います。
ところが、仏教では、「愛」は苦しみを表すものと言われているのです
それはなぜなのでしょうか。

愛するものと離れる苦しみ

仏教には「四苦八苦」という言葉があります。
これは私たちの八つの苦しみを言われたもので、その中の1つが「愛別離苦(あいべつりく)」です。
(「四苦八苦」は別の記事で紹介していますので、そちらも合わせてご参照ください。
十人十色の悩みが七千冊のお経にお釈迦さまが仏教を説かれた目的とは

「愛別離苦」とは、文字通り、愛するものと離れなければならない苦しみということです
好きな人と一緒にいられることは、大きな幸福です。
また、欲しい物が手に入った時の喜びは、大変大きなものでしょう。
それが大切なものであればあるほど、大事に扱うのではないでしょうか。

愛するものとの別れを望む人はありません。
できることなら、ずっと一緒にいたい、ずっと手元に置いておきたい。
そのように思うものでしょう。
ところが、私たちにはしばしばそれらとの別れが訪れるのです

親鸞聖人の愛別離苦

親鸞聖人は京都のお生まれですが、ある事件をきっかけに京都の地を離れ、新潟へ行かなければならなくなりました。
同時に、恩師と慕う法然上人は京都から高知県へ。
法然上人はこの時すでに80歳近く。再び会うことができるとは、到底思えません。

法然上人のお弟子となり、これからも教えを聞かせていただけると思っていた矢先の別れに、親鸞聖人は大変悲しまれます。
その時に詠まれたのが次の歌です。

会者定離 ありとはかねて聞きしかど 昨日今日とは思わざりけり

「愛」を苦しみと説く理由

会うは別れの一(はじめ)なり」とも言われますが、出会ったならばいずれ必ず離れる時が来ることを、誰でも頭では分かっているのではないでしょうか。
しかし、ずっと傍にあってほしいとの思いから、実際にはその別れを意識することはありません。
そして、実際に別れる時が来て、突然としか思えず、悲しみに暮れるのです

大切な人と別れたり、大切なものが壊れたりするのは、とても悲しいことでしょう。
そして、愛する気持ちが強ければ強いほど、それらと離れなければならない苦しみは、通常の何倍にもなります。
スイスの哲学者ヒルティは、愛について「心の底にしみとおる幸福」であるとしながらも、次のように書いています。

愛情の幸福にすっかり身をゆだねる人の心情が深く、かつ純粋であればあるほど、

その人は確実に、そして完全に、不幸になるであろう。

死によってこの苦い経験からのがれるのでないかぎり。

(ヒルティ著、草間平作・大和邦太郎訳『幸福論』)

「愛」というのは、私たちに幸せを与えてくれるものです。
ところが、同時に悲しみの源にもなるのが「愛」なのです
それが「愛別離苦」であり、仏教が「愛」を苦しみと説く理由です。

悲しみを悲しみで終わらせないために

こう聞けば、なんて悲観的なんだと感じる人もあるかもしれません。
しかし、手に入れたならば必ず失うことがあるのも、出会ったならば必ず別れが来ることも事実です。
お釈迦さまは、苦しみの人生を説き明かされた上で、本当の心の拠り所となるものがあることを教えられました。

悲しみを悲しみで終わらせるのではなく、本当の幸せの身になるための第一歩とすることこそが、仏教に説かれている視点です
また、事実を事実とありのままに見つめれば、今傍にある時に大事にしなければいけないことも分かるのではないでしょうか。

本当の意味で周りのものを大切にできるよう、「愛」の実態をよくよく見つめていきたいと思います。
それでは、また(^^)/

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