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うまくいっている時の落とし穴 有頂天の時にこそ思い出したい無常

 

2020/01/16

いつもお読みいただき、ありがとうございます。
チューリップ企画スタッフのわかです。

私は作家の森見登美彦さんの作品が好きでよく読んでいるのですが、少し前に発表された『有頂天家族』という作品があります。
京都に住むたぬきの家族を描いた物語で、登場人物が個性的で面白く読めます。

その話の中で、たぬきの他に中心的な役割を果たしているのが天狗です。
「赤玉先生」と呼ばれている老天狗は、若いころは絶大な力を誇る大天狗でした。
そのため、己の力をふるい、傲慢な物言いを常としていたのですが、ある事件をきっかけに、天狗としての力を失い、落ちぶれ、ぼろぼろのアパートに引きこもる生活を送るようになってしまいます。
その哀愁たるや、何とも言えないものがあります。

有頂天は失敗の前兆

慣用句で「天狗になる」という言葉があります。
いい気になって自慢する。得意になる。うぬぼれる
そういう意味を持った言葉です。

世の中は自分の思い通りにならないことばかり。
それで苦しんでいる人が多いので、何もかもが自分の思い通りになり、うまくいけば、こんなに楽しいことはありません。
だからこそ、舞い上がり、いい気分になるのでしょう。
そういう状態を「有頂天」という言葉でも表されたりしますよね。

ところが、「天狗になる」「有頂天になる」という言葉には、どこか皮肉めいた響きがあるように思います。
その後の失敗を予感させるからでしょうか。
多くの人が、有頂天になることが失敗の前兆であることを知っているようです。

有頂天の語源とは?

「有頂天」は、実は仏教に語源がある言葉です
仏教では、苦しみ悩みの世界を6つに分けて教えられ、これを「六界」と言われます。
苦しみの激しい方から順番に、地獄界(じごくかい)餓鬼界(がきかい)畜生界(ちくしょうかい)修羅界(しゅらかい)人間界(にんげんかい)天上界(てんじょうかい)とあり、一番苦しみ悩みの少ないのが天上界と説かれています。
その天上界もいくつかに分かれていて、中でも最上位にあるとされるのが「有頂天」なのです。

一番苦しみ悩みの少ない天上界でも最上位の世界ですから、どんなに楽しい世界なのだろうと羨ましく思います。
ところが、仏教では、この天上界もまた、他の5つの世界と同様、迷いの世界であると教えられているのです。
天上界のような楽しみの多い世界でも、必ず終わりが来るからでしょう

楽しい時間もまた「無常」

仏教では、「諸行無常」と教えられ、全てのものは続かないと説かれています
それは楽しい時間、幸せな時間も例外ではありません。
楽しい時間はなるべく長く続いてほしいと思いますが、実際には夢のように儚く、一瞬で過ぎて行ってしまうのが幸せな時間なのではないでしょうか。

加えて、幸せが大きければ大きいほど、その時間が終わってしまったときのショックもまた大きくなります。
昔「ちやほやの法則」というタイトルのついたCMがありました。
人気子役が「ちやほや」と書かれたボールを上から落とし、次のようなセリフを言うのです。

「持ち上げといて、落とされる。
持ち上げられるほど、落差が大きい」

上に上がれば上がるほど、落ちた時の衝撃が大きくなるのは、ボールも、人生も同じなのだなあと感じたものです。
普段冷静な時は、この事実を頭に置いて、良いことは続かないということを理解しているはずなのに、有頂天からの失敗が後を絶たないのはなぜなのでしょうか。

すべての人にある「慢」の心

学生時代、テストで面白いように問題が解け、これは満点かもしれないと思うくらい、よく答えが書けたことがありました。
テスト返却の際、満点に違いないとワクワクしながら自分の番を待っていると、返ってきたのは満点どころか凡ミスばかりの答案。
問題が解けたと浮かれるあまり、見直しが全然できていなかったのです。

すべての人には「慢(まん)」という自惚れ心があると言われています。
順調にいけばいくほど、この心が顔を出し、自らを省みることがなくなってしまいます
幸せな時間にもいつか終わりが来ることを、聞いてはいても、それは自分以外の誰かのことで、自分だけは例外だと思い込んでしまうのかもしれません。
あるいは、終わってほしくないと願うあまり、現実から目をそらしてしまうのかもしれません。
いずれにしろ、正しい姿が見えなくなっている状態が「有頂天」だと言えるのではないでしょうか。

「有頂天」は単に幸せの絶頂ということではなく、その陰に隠れている落とし穴を暗に示している言葉なのかもしれません
上手くいっているなと感じる時こそ、諸行無常だと心にとどめて、痛い目を見ないように注意したいですね。

それでは、また(^^)/

こちらの記事では、「慢」について解説しています。

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